とっておき!!TOKYO

東京のおいしい店、いい店、安い店。ここは私の“とっておき!!”と、日々の些細な物事に感じたことをご紹介する場所です。

【ねごと。】 わが青春のDUAD。

   



待ちに待ったものが、ようやく届きました。

それはカセットテープですが、ただのカセットテープではありません。





DUAD です。デュアド、と読みます。

これを見ておぉ、っとのけぞったあなた。

あなたは立派なオヤジです。


DUADは、かつて最高の音質を誇った

フェリクローム(Fe-Cr)というタイプのカセットテープ。

酸化鉄の層の上に、薄く酸化クロームの層を塗り重ねることで

低域を酸化鉄、高域をクロームが受け持つという離れ業を演じ、
幅広い周波数帯域と広いダイナミックレンジの両立を
可能にしていました。

音質が最高峰なら、値段も最高峰。

90分で1,200円もしたので、高校生の小遣いではなかなか
手が出ない高嶺の花でした。

でも、それだけにこのDUADには強い思い入れがありました。

NHK-FMでやっていたバイロイト音楽祭やウィーン・フィルの

ニューイヤーコンサートのPCM
(デジタルを昔はこう言っていた)生中継。
そうした、絶対に録り逃したくない貴重な音源を収めるための
まさに”とっておき”のテープがDUADだったのです。

このDUAD、Yahoo!オークションで探し続けてもう3年になるでしょうか。


Yahoo!オークションにある「オークションアラート」という機能。

これは、あらかじめ登録しておいた商品が出品されたときに

自動的に知らせてくれる機能。商品名であったり、カテゴリーであったり、
出品者で自動的に検索し、ほしい商品の出品を逃しません。

ここに「DUAD」のキーワードを入れて待つこと3年。


ようやく出てきました。未開封のDUADが。

DUAD生産完了からもう20年近くたつでしょうから、

よくぞまあ未開封で残っていてくれたものです。

いますぐに入札したい衝動にかられながらも、終了当日まで

我慢がまん。

オークションというのは、早くから入札しても

値段を釣り上げてしまうだけでまったく意味がありません。

本当に競り落としたいと思うのなら終了直前に参戦し、

一気に勝負をかける、というのが鉄則なのです。

参戦したのは終了5分前。

このときすでに3,700円まで競りあがっています。

20年以上も前のカセットテープなんかを買いたいというバカは

私だけではなかったようで、ちょっと嬉しくなってしまいます。

反面、これから絶対使いもしないカセットテープなんかに

3,700円以上注ぎ込もうという自分の馬鹿さ加減に、気づいて
いないわけでもありません。

しかし4,000円までなら…。

ポチッと入札してみると、出てきた結果は4,100円。

相手はもっと上に上限金額を設定しているのです。

じゃあ4,500円までなら…。

結果は4,600円で相手の勝ち。

ギャンブルと同じで、負けると熱くなってしまい、理性を

失い始めます。

しょうがない、5,000円が最後の上限だ。えいっ。

結果は…。


その瞬間、私が最高額入札者となり、そのまま4,700円で

競り落とすことができたのです。

でも、4,700円あれば飲みに行けるじゃん…。

たら~っと冷や汗と後悔がにじみ出てきても後の祭り。

しかたなく支払いの手続きをして到着を待っていた、

というわけです。

そしてクロネコメール便を待つこと一週間。

届いたものは想像以上に程度が良くて驚きました。

破れはもちろんスレた部分さえなく、まったくの新品と

言っていいほど。いい買い物をしたものです。


手に取った瞬間、いろんな光景がよみがえり、

いろんなことを次々と思い出してきます。

たとえば、TYPE III 。


メタルテープが登場する前の当時、NORMAL、CrO
2(クローム)、
Fe-Cr(フェリクローム)の3種類あったカセットテープの分類に、
ソニーが勝手にTYPE I、TYPE II、TYPE III の名称をつけました。

(のちに標準化されますが)

「クロームとフェリクロームって違いは?」という名称の煩雑さから
逃れ、ただ1,2,3の番号をつけることで簡単に使ってもらおうと
したのです。

それは同時に、NORMALとCrO
2の2種類にしか対応しない他社の
製品があったなかで、ソニーがDUADを守り、広めたいがために
編み出した戦略。TYPE IIIがないカセットデッキなんてダメ、という
イメージを作りたかったのでしょう。

それはまた、やがてくるメタルテープの時代、メタルテープは

TYPE Ⅳ(4)とすることで、”3が欠けるとかっこ悪い”状況を作り出し
DUADの延命を図ろうとしたのではないかとも思えてきます。

さらに裏を見ると。


懐かしのDPメカ。

カセット内側の、テープを巻き取るリール(ハブ)と接する

プラスチック製のシートに2本のリブ(筋状の出っ張り)をつける
ことで回転をスムーズにし、巻き取りも美しくできるようになった
という画期的なメカニズム。


しかしいまあらためて考えてみると、この程度のことが

“売り”にできていたのですから、カセットテープというのは
ずいぶん原始的なものだったんだなぁ、とも思います。

しかし、それにしてもなぜいまDUADなんかを入手したかったのか。

実は、私には変なコレクションがあります。


カセットテープの外装フィルムのコレクション。


エアチェックという言葉が、少なくとも若い世代では普通に通じ、

カセットテープという音楽メディアがいちばん華やかだったころ。

メーカー各社は性能を競うとともに、デザインでも競っていました。


しかし、その美しい外装フィルムはみな破かれ捨てられてしまう運命。

せっかくならきれいに剥がして保存してあげようと思ったのです。


保存しておけばいつか価値が出るかも、というスケベ心が

あったのも否定はしません。

しかし、そんなことを考えるヤツは私だけだったようで

これまで話題にも上ったことはありませんが。

このコレクションに、DUADがなかったのです。

最高峰だったDUADが。

もちろん今回未開封で手に入れたDUADを、わざわざ剥がす

つもりはありません。

ただ、もういちどDUADを手元に置いておきたくなったのです。

オーディオが教養ある人々の立派な趣味だった時代。

ソニーが最先端であり、ソニーを持つことがステータスだった
時代の記憶として。


そしてもうひとつ。

ここまで読んでくれた方にだけお話しますが、

DUADにはもうひとつ思い出があります。

高校時代、ブラスバンドに明け暮れていた私は、同じ部の

女の子に「若きウェルテルの悩み」のような恋をしました。

そしてその想いを打ち明けるきっかけに、なにかプレゼント

しようと、いや、しなければならないと思いたちました。

ところが当時の私には、女の子のほしがるものなど

皆目見当がつきません。
姉はいました。しかしとても同じ女とは思えない存在でした。

悩んだ末に、DUAD。

最高峰のカセットテープをあげようと。

しかし何か自分のセレクトした音楽を録音してからあげようにも、

当時の私はベートーヴェン一途のクラシック小僧です。

そんなもの渡しても彼女には喜んでもらえるはずなどない

ことくらいはわかっていました。

そこで私はなにをしたか。

外装フィルムのついた、新品のいわゆる生テープと呼ばれる

DUAD をそのまま渡したのです。

結果は聞かないでください。

いま、DUADを手にすると当時の切ない想いと、たっぷりの後悔で

胸がいっぱいになるのです。

 

 

 

この文章は「とっておき!!のねごと。」からのものです。
http://www.totteoki.jp/negoto/

 - スワン, ねごと。